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乾燥の実 その1

木材の乾燥ってなんだ?木材乾燥の基礎知識。

「木」を使う上で、とても重要な要素の一つに「乾燥」が挙げられます。
一昔前までは「伐りたて・挽きたて」の木材が一般建築に使用されていましたが、工期の短縮や高気密化などに伴い、今では「乾燥」を語らずに「木材」を納材することはできません。
ここでは「乾燥」という材木屋にとっては永遠のテーマについて、田村材木店の経験と各種研究機関の情報を基に、できるだけ解りやすく記載してみたいと思います。

木材の乾燥ってなんだ?

軒先に干された「柿」。
天日干しされた「野菜」。

ちょっと想像してみるとなんとなくイメージができると思いますが、
「木」も植物なので地中から吸い上げた「水」をたっぷりと含んでいて、
伐採後その水分が抜けると小さくなったり形が変わったりしちゃいます。

木は「木材」として家を建てるための素材や家具の材料などに使用する場合が殆どで、特に有用樹種の「杉(スギ)」や「桧(ヒノキ)」は約90%が建築用に使用されていますが、水をたっぷり含んだ状態のまま「木材」を使ってしまうと、使用した後に形が変わってしまったり、時にはカビたり腐ったりなど、何かと問題が起こってしまうわけです。

地方によっては未だに、こうした水をたっぷり含んだ「伐りたて、挽きたて、納品したて」のどこかで聞いたような「三たて」フレーズで使用しているところもあるようです。一昔前は、どこでも大工さんが少しずつ手で刻んで、建て方をした後少し時間を掛けながら造っていくうちに、自然と木材中の水分も抜け始めて、完成する頃にはいい感じの乾燥状態になっていたようですが…。
さて、近年はどうでしょう。 機械化が進んで工期も短縮傾向にあり、まぁ完成の早いこと。しかも気密性が高くなって。こうなるとあらかじめしっかり乾燥させておかないと、何かと不安の残る建物になっちゃいます。

  • 針葉樹のタイコ梁:捩じれ
  • 広葉樹:捩じれ

常時目に付く「フローリング(床板)」や「木製建具」、壁なんかに使う「羽目板」。これがたっぷり水が含まれた状態で作られて使用されたとしたらどうでしょう。

乾燥に伴って、フローリングは収縮を起こし隙間だらけで床の下が見えちゃうかもしれないし、建具は変形して正常に開け閉めができなくなってしまうかもしれません。かなり気になりますよね。

でも、家の骨組みに使用する「軸組材(構造材)」の場合、壁の中に隠れてしまい完成後は殆ど見えなくなってしまうような建築が多い現在、壁の中で、天井裏で何が起こっているのか解らない状態で然程気にする事無く生活していると、どこからともなく「バリッ!バキッ!メシッ!」なんて音が聞こえてきたりするわけです。

こうした「音」も「変形・収縮」も、乾燥の事や乾燥の方法、木の特性を知っていれば、不安になることも少なくなると思います。

という事で、かなり前置きが長くなりましたが、
ここから「乾燥」と「乾燥の方法」についてしっかり記載したいと思います。
せめて、家造りをする前に読んでもらえると嬉しいな~。

あなたの知らない木材の世界

植物。食品。生物に至るまで、
水分が抜けると小さくなります。

木材も同じで、水分が抜けると小さくなったり形が変わる「収縮・変形」がおこり、
逆に乾いた状態で水分を含むと膨らむ「膨張」がおきます。
この特性が木材を利用する上で最も悩ましいところでもありますが
そんな事も気にせず使用すると…
さぁ大変。
では、どうしたらいいんでしょう?
「乾燥とは何か?」
「乾燥するってどういうことなのか?」
を理解する事がとても大切だと思います。
知った上で使うのと、知らずに使うのでは大変な違いが出ることでしょう!
ということで、それでは業界の人でもあまり知らない
乾燥の深みへと足を踏み入れていきましょうか。

STEP1 含水率を理解するんじゃ。

乾燥を理解するうえで絶対に欠かせない「含水率」。

「含水率」とは、木材の中に含まれている水分の割合の事で、これが解ると「この木はどんだけ乾いているんだ?」とか「乾燥が足りないな~」とか「安心して使えるな。」なんて事が解ってしまう、とても重要な数字なのです。
この含水率の計測には、熟練の材木屋になると、木材を持ち上げて『ん~52%位か?』なんて含水率をはじき出す事が可能に?…ならないので、専門の機器で計測します。
他社でも同じような機器を使っていると思いますが、田村材木店で使っているのはこの3つの機械。

  • 恒温器(ヤマト定温乾燥器)

    恒温器(ヤマト定温乾燥器)

    全乾法で含水率を測定する場合に使用します。
    10年物ですが故障はしないし、木材以外にも(干物とかw)ちょっとしたものであれば乾かせちゃう優れもの。

  • 木材水分計(ケツト科学研究所)

    木材水分計(ケツト科学研究所)

    持ち運びできるハンディータイプのいわゆる、簡易型の含水計。

  • 木材水分計(DELTA-55)

    木材水分計(DELTA-55)

    こちらも持ち運びできる高周波型の簡易型含水計。

皆さまのご家庭にも一つ…というわけにもいきませんが、材木屋さんは必ずこうした木材中の水分を計測するための機器を持っているのが普通です。そしてお高い。そこら辺に売っている訳でもなく、一般的に普及しているわけでもないのでビックリするほどいい値段。


含水率300%!!

一般的に目にする機会の多い「杉」を例に含水率を計測してみると、伐り倒す前の立ち木の状態で含水率を計測すると大凡『40%から100%、それ以上』で中には200%や300%なんて含水率をたたき出す個体もあります。
満員電車は時に乗車率200%なんて事もありますが、木材の場合100%を超えるってことはどんな状態のときなのでしょう。

  • 含水率とは
  • これは「全乾法」で計測するときの基本的な考え方だぞ。

例えば…山から運ばれてきた丸太の重さを量ってみたところ『2kg』ありました。この丸太から中に含まれている水分を全部抜いて再度計測したら『1kg』になりました。ということは、含まれていた水分が『1kg』だったって事になります。この「木そのものの重量」と「含まれていた水分量」が同じであれば『含水率100%』になります。
木材そのものの重量より水分量が多ければ100%を超える。ってことになるんですね。

ちなみに、じゃぁ適正な含水率はどんだけなんだ?
という事で、目安を記載しますが、樹種や部材、特に用途によって適正な含水率が変わってくるのであくまでも参考という事で。

●大きな部材(構造材・軸組材)…20~25%以下 家の骨組みに使う柱や梁・桁など ●比較的小さな部材(造作材)…15%以下 天井や壁・床、枠など加工などしたりする部材

  • 構造材

    構造材(25%以下なら乾燥材と言ってもよいかも。)

  • 造作材

    造作材(15%以下なら使えるかな。)


実はこの含水率にはちゃんと理由がある。

ここで出てくるのが「平衡含水率(へいこうがんすいりつ)」や、「繊維飽和点(せんいほうわてん)」というなにやら小難しい言葉。
さて、ここまで来ると業界の方以外にとっては☆マニア☆の領域に踏み入れていく事になりますが、近年こうした業界の方以上にやたらと詳しい人もいるので、そんな方のために更に深く踏み込んで行きましょう!!

マニアの領域
STEP2 平衡含水率を理解するんじゃ。

平衡含水率(へいこうがんすいりつ)

どれだけ木材を乾かして水分を減らしたとしても、自然の大気中の水蒸気の影響で一定の含水率にまで戻ろうとします。こうした外部空気の温湿度状態とつりあって安定したときの含水率が「平衡含水率(気乾含水率)」といいます。
簡単に言うと、その辺に放り出しておくと、そのうち木材の中に含まれている水の量が殆ど増減しなくなるってこと。このときの状態が「平衡含水率で安定する」ってことなんですね~。
ちなみに。日本列島は縦に長いので地域によって結構違いが出ているようですが、日本の場合おおよそ平均的な木材の平衡含水率は15%となっているようです。
そのため、概ねこの平衡含水率に合わせた含水率設定が必要になるって事ですね。

平衡含水率

更に深く踏み込んでいくと…

「ヒステリシス」なるものが出てくる。
木材業界では結構有効な現象として製品造りに役立てていますが、多くの材木屋は知らず知らずのうちにこの現象の恩恵を受けている場合が多いと思われる。

田村材木店で作っている「日光赤杉フローリング」。これはこのヒステリシスを応用して生産している一例。

天然乾燥に人工乾燥を加え意図的に平衡含水率以下まで下げる事で、比較的巾の広い日光赤杉フローリングでも寸法変化が少ない製品になっている。

ヒステリシス

ヒステリシスって?

簡単に説明すると、木材は空気中の水分を吸放湿して平衡含水率に落ち着くけど、人工的にある程度まで水分を抜いた木材は、自然に放置した木材よりも含水率が低いままになるという。なんとも摩訶不思議な現象をヒステリシス(水分の履歴現象)といいます。これだけを聞くとなんだか人工乾燥材の方が良い様に感じるかもしれませんが、これは「乾燥の実 その2」で記載する事にしましょう。

ヒステリシスって?
ヒステリーとは違いますよ!
STEP3 繊維飽和点を理解するんじゃ。

繊維飽和点(せんいほうわてん)

さて最高難度の言葉が出てきました。繊維飽和点のを説明するためには、木材の細胞の領域に突入する事になります。さぁいってみよう!

これは、田村材木店が宅配便等で発送する際に梱包用として使用している『巻きダンボール』。これがちょうど、ぐるぐる巻きになっていてなんとなく木材の形にも木材の構造にもよく似ている感じがする。

木材は顕微鏡で見てみると、ダンボールのように中身は空洞が沢山ある。この空隙が木の「暖かく感じる、弾力性がある、しなやか。」の秘密です。
ダンボールも紙を厚い物に変えたりすると重たくなったり硬くなったりしますよね、これを木材の場合、物理的性質で「密度」とか「比重」なんて言葉で表したりします。

ここに挙げた例は針葉樹(スギ・ヒノキ・マツ など)の場合で、これが広葉樹(ナラ・ブナ・ケヤキ など)になるとまた違ってくるので広葉樹編はまた来週!

さて、こちらは木材を顕微鏡で拡大した感じのイメージ図。ダンボールで例えるところの「紙」の部分が木材の「細胞壁(針葉樹:仮導管)」になります。
簡単に言うと、この細胞壁の集合体が「木」と言えます。

さて、乾燥の話に戻りますが、ではこの拡大イメージ図のどこに水が含まれているのでしょうか?

針葉樹のスギの場合、仮道管(かどうかん)が構成割合の約90%を占めていて、この仮道管の中の空洞部分に含まれる水分を「自由水」といいます。
「自由」というだけあって、この部分の水は「出入り自由??」な感じで意外と簡単に水分が抜けてくれます。この空洞の部分に入っている自由水が全部抜けきった状態のことを「繊維飽和点」といいます。
自由水が全て抜けきると、残るは壁の中で細胞壁と強く結びついた「結合水」だけになります。この状態での含水率はおおむね30%。

この30%の状態「繊維飽和点」が乾燥の大きなポイントです!

  • 繊維飽和点
  • 繊維飽和点
顕微鏡で拡大してみると、実際はこんな形になっているんだ。自由水や結合水がどこに含まれているか解るかな~

自由水に続き、結合水が抜け始めると水分の減少と共に細胞壁の収縮が始まります。

空洞に溜まっている水が抜けても空洞になるだけで以前程変化は起こらないけど、壁から水が抜けるとその壁自体が縮み始めちゃうので、細胞壁の集合体ともなると、その影響は絶大?な感じで全体的に大きな収縮などの変化を起こすことになります。

木材は繊維飽和点以下に水分が減少すると変形収縮を起こし始めることから、おおむね乾燥材としての分類としては「含水率が25%以下のもの」を指しますが、乾燥の目安として建築における骨組み材の「構造材」は20%以下、化粧材として使用する「造作材」は15%以下をおおよその目安としています。

木は水が抜けると、その分、縮もうとするので、変形したり、引っ張られて割れたりするんじゃ。だから予め乾かして使うことが重要なんじゃぞ。
製材直後の木材は含水率が100%を超えるものが多い

製材直後の木材はたっぷりと水を含んでいて、含水率が100%を超えるものが多いんじゃ。
こうした乾燥前の製材品「生材(なまざい)・GR(グリーン)材」は、水分の減少に伴って変形収縮を起こすんじゃ。季節によってはカビ等の菌が増殖してしまうぞ。

ふくろう博士
木は乾燥させることで木本来の力を発揮する

使用する前に用途に合わせて乾燥させることが重要じゃ。
木は乾燥させることで木本来の力を発揮してくれるぞ!!

ふくろう博士

木材は「経験と勘」じゃ!なんて言っていた頃もあったが、その経験と勘に「科学的な視点」を加える事がとても重要になってきたんじゃ。 なぜ変形するのか?なぜ腐るのか?そんなことも科学的な視点で見てみると理屈が解って安心したりするもんじゃ。

そうじゃのう…例えば、『乾燥させるとなぜ強度が増すのか?』

少し前までは数をこなして経験で解っていた事じゃが、これが科学的な視点で見て見ると、
水が無くなるとセルロース間の水素結合が強くなって強度が増す事が解る。
あまりエンドユーザーには聞きなれないことでも、せめて木材を販売する者の責任として、売っているものを理解したいもんじゃな。