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乾燥の実 その2

乾燥方法の違いによる「メリット・デメリット」

一言で「乾燥」と言っても、洗濯物と同じで、洗濯乾燥機で乾かすのか、お日さまに当てて乾かすのか、部屋干しするのか、って感じで、木材も乾かす方法が色々とあります。
しかも!その乾燥の仕方一つで色々と変わってきちゃうのがこの「乾燥方法」の重要なところ。
馬車で山から木を伐り出していた頃は、山中で丸太のまま乾かす「葉枯らし乾燥」や、製材後放置して自然に乾かす「天然乾燥」しかありませんでしたが、近年は機械化が進み人工的に乾燥させる方法が主流になってきました。その結果、様々な乾燥方法ができるようになりましたが、逆にどれを選択すればいいのか解らない…なんて状況が発生している現状にあるようです。
という事で、ここではその様々な乾燥方法とその特徴を「良いところ(メリット)・悪いところ(デメリット)」を踏まえてご紹介していきます。

天然乾燥と人工乾燥

会社によってどちらか一種類の乾燥方法が主流。

  • 人工乾燥(高温乾燥・中温乾燥)専門
  • 天然乾燥専門

    田村材木店の乾燥方法

  • 天然乾燥(自然乾燥)
  • 蒸気式 人工乾燥 高温乾燥
  • 蒸気式 人工乾燥 中温乾燥
  • 蒸気式 人工乾燥 低温乾燥
  • ハイブリッド乾燥
  • 天然乾燥+低温乾燥
  • 田村材木店の天然乾燥施設
  • 蒸気式の人工乾燥機

乾燥方法は大きく分けてこの二つ。

自然に乾燥するのを促す方法と、機械を使って乾かす方法。製材を行っている材木屋さんは一般的にどちらか片方しか行わないのが主流。理由は両方やると設備投資が大変である事と生産コストがかさむ事が挙げられます。

田村材木店の天然乾燥施設は約600坪の敷地に最大1,000㎥程度、柱に換算すると約30,000本程度の天然乾燥材をストックする事ができます。また、蒸気式の人工乾燥機も保有しているが、その熱源には製材中に発生する木屑などを燃料としたバイオマスボイラーを完備して、環境に配慮した乾燥を行っています。

  • バイオマスボイラー
  • 田村材木店の天然乾燥施設

天然乾燥と人工乾燥

天然(自然)乾燥材:AD(AirDry)材のメリット・デメリット

天然(自然)乾燥のデメリット

天然乾燥のデメリットはなんと言っても「乾燥の限界」にある。

大きな製材品になればなるほど、なかなか乾いてくれません(乾燥の実その1に詳細は記載していますので詳しくはそちらを見ていただいて…ということで)。含水率や平衡含水率、繊維飽和点という言葉が出てきましたが、木材は繊維飽和点から変形や収縮を始めるので含水率を30パーセント以下まで下げてから使用したいところですが、実際には大きな部材になると、これ以下に下げるためには相当な日数が必要になります。

田村材木店には天然乾燥施設がありますが、通常、製材した後に様々な種類の製材品を屋根の下で2年も3年も保管し続けられる場所が確保できる製材工場は全国的に見てもかなり少ないので、必要な天然乾燥材を入手する事が難しい現状があります。また、含水率は平衡含水率の関係上、平均して15パーセント以下には下がりませんが、建築の部材として使用した場合、完成後、実際に住み始めると暖房やエアコンなどの関係で室内の湿度は外気と比べると低い数値を指します。こうなると、自然に乾燥させた木材は天然では下がりきれない含水率になり、それにつれて必ずといっていいほど「変形・収縮」を起こします。高気密・高断熱の家になればなおさらです。

変形や収縮が起きると、壁の内部に納まった柱は内側から壁を押して壁紙が切れてしまったり、フローリングなどの板材に於いては収縮して隙間が広がってしまったりします。構造材が壁の中や天井裏で変形するのは構造上問題が無ければ然程気にする事も無いかもしれませんが、大黒柱が曲がってしまったり、折角見えるように設計した梁・桁が捩じれたり下がってきてしまったら、とても心配になるはず。正直、こうならないと断言できないのが天然乾燥の難しいところでもあります。

天然(自然)乾燥のメリット

いやいや。そんなデメリットには負けない良さがある!

天然乾燥の最高の良さは「香り」だと思う(田村材木店社長談)。人は香りに影響される事は経験的に誰もが知っていることだと思います。建築に多く使用されるスギやヒノキに含まれる代表的な精油成分のa-ピネンやリモネンなどは、交感神経活動の抑制をもたらし、リラクゼーション効果があることは数々の実験で実証されているところです。この香り成分は揮発性なので乾燥に伴って空中に飛散してしまいます。もちろん天然乾燥材でも長い年月が経てばいずれは香りがなくなってしまいますが、50℃以上120℃以下としている現在の一般的な人工乾燥では、沸点が50℃位といわれているa-ピネンはその時点で揮発してしまい、木材本来の「良い香り」が失われてしまう事になります。

天然乾燥のデメリットでもある含水率は逆に良さと捉える事もできます。適度な水分は加工のしやすさに繋がります。木材の被削性(削りやすさ)は含水率が関係していて、特に高温乾燥という現在の構造材に於ける一般的な乾燥方法と比べると、精油成分が失われない事や熱硬化性樹脂が硬化しない事、そして内層部への収縮による表面の圧縮応力の影響を受けない事で、加工するという点に於いては天然乾燥の方がより綺麗に緻密に細工し仕上げる事ができます。
また、木材特有の「艶」も乾燥方法に由来します。木材は細長い細胞の集まりでできていて、削った面の目には見えない細胞内の穴の面が鏡のような働きで光を反射させることで光沢感がでると考えられているようです。この光沢感は天然乾燥の方が光度計の値が高い傾向にあります。
更に、田村材木店が独自の研究調査を研究機関に依頼した「継ぎ手の強度」では、高い熱を加えた構造材の仕口よりも、天然乾燥の仕口の強度が上回っていた実験データがあります。近年に於いては金物で繋ぎ止める金物工法が主流にはなってきましたが、昔ながらの手法で造り上げる建築物には天然乾燥材がやはり最もふさわしいようです。

ちなみに…
天然乾燥特有の干割れに関しては「木材の割れは強度には関係ありません。」
これは現在、木材業界では一般常識になっているので、ここではあまり詳しくは記載しませんが、建主さまから最も質問が多い内容でもあるので「割れと強度の実」で触れていこうと思います。

天然乾燥と人工乾燥

人工乾燥材:KD(KilnDry)材のメリット・デメリット

人工乾燥のメリット

人工乾燥はプログラム次第。使い方は無限!

近年よく目にするのは「人工乾燥=強制乾燥」とか「人工乾燥=高温乾燥」という言い回し。田村材木店には「蒸気式乾燥機」というものが導入されていますが、現在では数ある乾燥機の中で全体の9割近くを占める最もポピュラーなのがこの「蒸気式」。よく思うのですがこれを一番初めに考え付いた人は天才だと思う。今でこそ「熱と水」で乾かす事の理屈が当然になっていますが、納豆を初めて食べた人と同じ位にすごいと思う。

さて、話を戻して…。
蒸気式の人工乾燥機は使い方一つでどうにでもできる優れもの。したがって「人工乾燥イコール強制乾燥」とか「人工乾燥イコール高温乾燥」と言っている方々は「乾燥を知らない」か「過剰な自社アピール」に聞こえてしまいます。人工乾燥の最大のメリットは、含水率を意図的に調整する事ができる事です。木材は使用する場所によって含水率を使い分ける事が理想的ですが、建築の工期が短い現代において、天然乾燥のゆっくりとした時間では対応できない現状もあります。乾燥は含水率との戦いなのでこの含水率を意図的に調整ができるという点においては天然乾燥より優れていると言えるでしょう。主に建築の部材として使用される木材にとっては、大きな変形を起こさない事が求められます。特に極僅かな変形でさえ注意を払わなくてはならない部材に至っては、人工乾燥特有のヒステリシス等を用いて対応する事も必要です。

更にはこの蒸気式乾燥機、松のヤニを処理する事もできる。天然乾燥も人工乾燥もそしてハイブリッド乾燥も行う田村材木店が結論を言えば「木材の樹種や部位と用途を考慮して適切な方法で、適切なスケジュールを組める人材が行う人工乾燥には、大きなデメリットは存在しない。」と、いえると思う。人工乾燥機はただの「道具」。使い手によって良くも悪くもなるのが人工乾燥です。

人工乾燥のデメリット

行き過ぎた人工乾燥は「工業化製品」になっちゃう。

人工乾燥は、自然に乾燥させるという点においては画一的な天然乾燥とは違い、前項でも記載したとおり、機械で乾かすのでそりゃもう使い方は千差万別。会社、地域、樹種によって皆さん使い方が違うのですが、ここではできる限り簡単に経験上デメリットと考えられる部分を抜き出してみたいと思います。

基本的に何でもできちゃう蒸気式の乾燥機で乾燥させる木材に大きなデメリットは無いと考えていますが、50℃を超えると香りが無くなってきて、60℃を超えると本来の色艶が失われていく木材の成分を考慮すると、一般的な人工乾燥での温度帯で乾燥した場合、木材本来の良さでもある「香り・色艶」を損なう事になります。
人工乾燥はその名の通り人工的に木材中の水分を調整できるのですが、水分を減らすために熱源でもある蒸気を使って温度を上げ下げしていきます。この際の温度が木材に様々な影響を与えています。ということは問題は温度設定?とお気づきの方もいると思いますが、人工乾燥機の元々の目的は「乾燥期間を短縮する」事にあるので、大気中にあるような自然な温度設定でも乾燥はできてもそれなりに期間が必要。それじゃ人工乾燥機に入れる意味が…ってなっちゃうので、通常は1~2週間程度で乾燥させる事を前提に、その乾燥させる部材に合わせた温度設定をしていきます。

こうした人工乾燥が「悪者」のように例えられるようになった原因は、2000年代から多く使用されるようになった「高温乾燥・超高温乾燥」によるものだと思われます。それ以前の低温乾燥・中温乾燥が主流だった人工乾燥は天然乾燥に比べ短い期間で乾燥することだけに特化していましたが、「割れる・変形する」という木材の特性を蒸気(温度・湿度)で解消する方法が開発された「高温乾燥」、そして更に温度を上げて「腐食を防ぐ」事を目的とした「超高温乾燥(熱処理)」が大きく人工乾燥のメリット・デメリットの対象として担ぎ上げられる事になりました。この高温乾燥に関しては、ここで記載するには情報量が多すぎるので、のちのち記載する「高温乾燥の実」をご覧いただければと思いますが、当然、より高い温度(120℃)の熱を加えるので香りや色の変化も顕著に現れ、表面に割れを発生させない分、その歪みが内部に現れる「内部割れ」による継ぎ手の強度低下などがデメリットとして挙げられます。私見ですが近年の建築事情に沿って、天然素材がベニヤや新建材などの「工業化製品」寄りになっているのかもしれませんね。

ちなみに。

ここでは「天然(自然)乾燥」と「人工乾燥」を比較して、メリット・デメリットを記載してみましたが、木材の乾燥方法にはこれ以外に『製材する前に乾燥させる方法』があります。よく知られているのは「葉枯らし乾燥」。葉枯らし乾燥は製材品の天然乾燥同様昔から行われていた乾燥方法の一つです。通常は木を伐り倒すとすぐに必要な長さに切って搬出作業に掛かりますが、葉枯らし乾燥の場合は、伐採するとその状態で枝葉を残したまま山に放置することで、葉からの蒸散作用を利用して木材中の水分を減らす乾燥方法です。詳しくはそのうち記載する事として…、1ヵ月ほどで含水率は急降下し3ヵ月程で含水率は元々の半分ほどに下がります。これにもメリット・デメリットはありますが、製材した木材製品としての「乾燥材」とまでは行き着かないので、通常は製材した後に天然乾燥や人工乾燥を行う前の「前乾燥」としての役割を担う乾燥方法になります。
これ以外にも原木丸太の状態で行う「燻煙乾燥」や、田村材木店でも一時その真実は如何に!!と気合を入れて研究した「新月伐採」といった伐採方法で対応する乾燥方法などがあります。

  • 葉枯らし乾燥
  • 新月伐採

「乾燥」は材木屋にとって永遠のテーマかもしれんな。
そう思うほど乾燥は難しくて奥が深い。

乾燥機メーカーでは現時点でも新しい乾燥方法が研究開発され続けている事を考えれば、
まだ決定的な乾燥法が確立されていない事が解ると思う。
毎日材木と向き合っている材木屋でも頭を悩ます「乾燥方法」を、消費者が選べって言ったってそりゃ無理な話じゃ。

木を使うとき。木で家を建てるとき。
そんな時はぜひ相談するべきかもしれんの~。